このままもう何も動かないぜ どこで方位を誤った
夢を見た気持ちは忘れられなかったね
もうダメだと思うたびに、ひとよりもその回数が多いのかもしれない、そのたびに聴きたくなった。唄が助けてくれはしない、聞いたからといって解決するわけじゃない。これは夢というほどの大きなもんでもない。適役は他にいる。でもそうやってひとつずつ否定していくたびに、「本当にそうなの?」と問う自分がいることも、知っていた。
ゆるやかに強弱を繰り返す海の波のようなボーカルの声、意志をもって歪むギター、なにより僕が聴きたくなるのはこのドラムだ。叩き方が感情的で、機械や楽譜で再現できないような演奏をする。リズムのよれ、サビ前にずれるテンポ、そういうものが自分に寄りそう。閉塞と開放を繰り返し、どうにかしてここから出ようともがく音。僕はこの曲に希望を感じている。
ロックミュージック。彼らは誰かではなく、もっと限定的な一人に向けて歌っているんじゃないのか。深い意識層から救おうと試みる、必要とされなかった、信じきれなかった自分を救い上げるように。
眩しい幻。他の何より最高だ。
間奏からdメロへと続く。直後の間奏部分、同じリズムをキープしているドラムが、たった一瞬、これでもかと粒を入れる。この歌詞のところだ。
誰が気付くんだろうと思うと同時に、気付いた自分がいることを知る。
入れる必要のない拍数。そこまで叩く必要のないタム。目を閉じて歌うVo。重ねて聞こえてくる唄にふと、数分前のもうダメだと思っていた自分がフィードバックする。
「本当にそう?」
僕にはたしかに聞こえた。
ミュージックビデオのボーカルは目を閉じて歌っている。
熱を持ったドラムに自分が重なる。
叩く必要のない拍数に、自分の感覚を信じろと聞こえる。
数分前とはほんのすこし何かが違うのを感じる、ほんのわずかなズレ。だけどたしかな隙間だ。「そうだろ」とドラムが言う。「そうかもしれない」自分に言える。いつの間にかやれる気がしている。理由はない。ただの音だ。忘れられなかった夢も、まだ今なら覚えてるだろ、と唄の中にいる誰かが言う。「そうだろ」まだ叩き続けているドラムが聞こえる。1つ1つの音が分散して、また集まってくる。
動けよ、また忘れたら、ここにくればいい。酔っ払ったように胸が熱くなってなんでもできるような気がした一瞬。あのドラムが声のない一節を入れた。目を閉じる、あのボーカルのように。僕にもまだ残るもの。
もうダメだと思うたびに、あのドラムを聴きたくなる。諦めるなという声が、自分にもまだ残っていることを知る。
ただの1拍、ただの音、ただの歌が、誰かを救う気がしてる。このバンドなら、それができる気がしてるんだ。
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