これから、を見てる今作「boys」。「hadaka.ep」’次回予告’から続く、僕ら目線のその先だ。
今日は眠ろう。という歌詞は、woman’sにもあった。”Good night”。眠るという言葉を、彼らは通常以上に解釈をしている。眠って、すべて終わる。忘れてしまう。眠ることをネガティブな、終わってしまう何かにたとえて恐れているように。
忘れてしまうんじゃないか。朝が来れば、なにも覚えてないんじゃないのか。追いかけられている何かは、眠っている間に追いついてしまうような焦燥感だ。今に賭けるあまり、もう二度とない今を生きているから、今起きているすべてなにも見逃せないし、見逃したくない。でも物理的、時間的にそれはできない。何度も手に取る写真に写る君は、時間が経つたびに綺麗になった。そんなこともあったよね。これでいいと、これでいいんだって、誰かにいってほしい、そうしたら眠れる気がすると。
それをこのアルバムの最後の曲、M.13 芝居まで聞いた時、言っているような気がした。
幸福も不幸もまるで泡みたいだ
最新作「boys」、このアルバムが今までと大きく違うのは、”時間によってかわるもの”を彼らが受容し始めたことだ。夏が終わる、終わらないように叫んで走って拒んで、砂時計を横にして眠らないでいたとしても、いつか必ず夏は終わる。だからこそ夏は美しく、抗えない何かに抗えば抗うほど、自分の弱さを、自覚していく。そしてこのアルバムで彼らは何もできない、自分を認めている。
またただ 夢を見ていた
いつの間にか、季節が変わる。日々に忙殺され、ニュースを追うことすら難しくて、誰かがインスタにあげてる景色で、季節が変わることを知る。どこか、自分が置いていかれていて、誰か、例えば自分の彼女だったあの子は、今どうしているんだろう。いつか聞いていたバンドは、あの映画にでていた俳優は、どうなったんだろう。何も知らない自分にとって、それはただの情報であり、姿勢やポーズで、どれだけ知っていたとしても、自分を肯定してくれるわけじゃない。彼らは、そういう格好ではなく、君が今知っていること、見たこと、経験したこと。暗記した台詞をそのまま言うんじゃなくて、間違えてもいいから自分の言葉で言うことだけが、自分を認めてくれると歌う。
それは今の時代で本当に大事なことだと思う。情報じゃなくて、不特定多数じゃなくて。君が一緒で良かった。コレが見たかったと言えること。自分が、自分としてあることを認めてくれる何かがある限り、自分でいられるんだ。
本当は昔の話を話したいわけじゃなくて、ただ今を生きていたいだけなのに、いつのまにか眠くなってしまう。誰にでも経験あるんじゃないか。1秒1秒全てのシーンがもう 撮り直せないことは、わかっているはずなのに、台本なんてないはずなのに、どこかに正解を求めてしまうし、黙っていれば僕が動かなくとも誰かが何かをしてくれると思っている。そうして、そうした、勇気や覚悟をしなければいけない一瞬を見逃してしまう。
フロントVo.椎木の感受性
今作でも椎木は言葉の使い方が上手い。一見、言っていることは珍しくない、いわば王道だ。でも誰にもできない。感じたことをアウトプットする器官が並外れたセンス感覚だ。M6.ホームタウン、M10.怠惰でいいとも なんかは今までにない曲。でもとてもバランスがいいし、アルバム内でいいスパイスになっている。他の誰かがやったら恐らくきっとほぼ必ずめちゃくちゃな曲になると思うし、とてもじゃないがマイヘアの冠をつけたアルバムには入れられない。余談だが椎木はSNSの発信もうまい。自分がどう見られ、どう見せたいのかを感覚として分かっているのは、今の時代とても強い。誰にでもできるわけじゃない。
こういう助長と取られかねない平易なコード進行のラブソングも、魔法がかかったようにここにしかない曲になる。
いつか「歌詞冒頭の一文はとても考えてます」とインタビューで語っていたが、編曲と掴み方にエッジが効く。ずっとバンドサウンドにこだわり、地元にこだわり、自分が好きだったものにこだわり続けている。今作もオーケストラアンサンブルはあるものの、根底にあるメロディは変わっていない。それは執着でなく、もはや信念だ。
夥しいほどのバンドが、マイヘアの表面だけ真似をして出現したが、残念ながらマイヘアが開けた風穴からチョロチョロと顔を出しているだけだ。よくよくメロディと背景アンサンブルだけ聞けば、このM.4 化粧もどこにでもありそうな唄なんだ。ただ、Cメロの口紅で書いた 赤い糸じゃ あなたのこと縛れなくては書けないし、歌えないし、組み込めないし、表現できない。覚悟を持って歌っているから歌えるし、自分に信念があるからサビに組み込める。
今の僕が予告編になるような 長い映画を撮ることに決めたんだ
重ねてきた年月に、彼らはその先を見てる。こんなに素直で、愚直で、瑞々しくて、胸を震わせるアルバムは凄く久々だ。バンドってやっぱりいいなと思った。音楽に誰もが通る、メインストリームが無くなったと言われて久しいけど、みんな一回通して聴いてください。まだ彼らは上に行けると思うし、行くべきだとも思ってる。君が海から始まって、芝居で終わるアルバム「boys」。いつか、僕や誰かが持っていた感覚が詰まっていて、いいよなって感じた今も、良いんだよって朝まで話した居酒屋も、いつか、この瞬間も、映画みたいに思い返せたらいいよな。また夏が来る。
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